ツバメ
超低空飛行で、僕の足元をツバメが横切った。
そうか、もうツバメが飛び交う季節になったんだ。
そう思いながら照りつける太陽を軽く睨みつけた。
今日の最高気温は34℃になるだろうと、朝の
ニュースで確か言っていた。
もっとも都内のビルの狭間では、体感温度は
はるかに高いだろう。
春先、ツバメは遥か太平洋を渡って、フィリピン
あたりからこの日本にやってくる。
そして東京にもあちこちに土と唾液を固めた
巣を作り、そこに卵を産む。
きっと初夏には、巣の中で黄色い嘴の雛たちが
ひしめき合っていたことだろう。
親鳥たちは、晴れた空気の乾燥した日には
高く飛び、今にも泣き出しそうな曇り空の
下では低く狙いを定め、交代で虫を捕らえては
巣に運ぶ。
雛たちはその嘴に負けないほどの黄色い声で
親鳥を迎える。
もうそろそろ巣立ちの時期だ。
9月も半ばになれば、ツバメたちは皆この日本から
飛び立って行くことだろう。
日本の冬の寒さを逃れて、遥か2,000キロの
海を越えて南の楽園を目指すのだ。
ツバメたちが何のために日本に来るのかは、実は
よく分かっていない。
巣作りの環境が良いからとか、餌となる昆虫が
豊富に居るからとか、様々な推測が為されているが
本当のことはまだ分かっていない。
ただ間違いなく、今年生まれた彼らは来年また
ここへやってくる。
2,000キロの海を越えてこの東京に帰ってくる。
そして僕にまた夏の訪れを告げてくれるだろう。