夏休み


今日は、みどりおばあちゃんについて話そう。


みどりおばあちゃんは御歳78歳である。
みどりおばあちゃんと僕とは血縁関係は無い。
ひょんな事から知り合いになり、ときどき
遊びに行くようになったのである。
今回の夏休みにも、ウチの奥さんを連れて
遊びに行くこととなった。


そもそもおばあちゃんは、決して「大手」とは
言えないドライプルーンのメーカーの社長である。
昔から利益を考えない品質重視の営業方針で
経営をされて来たため(本人曰く、未だに
自社商品の原価を知らないらしい)、30年以上も
お付き合いのあるような「固定客」で会社が
成り立っているのだそうだ。


僕が聞いた話しによると、40数年も前、彼女の
自身の病気がプルーンを毎日食べ続けて、症状が
改善されたことを発端に、プルーンの研究を
始めたのだそうだ。
そして、この不思議な果実の魅力に取り憑かれ、
単身カリフォルニアに渡り、最高のプルーン
栽培農家と契約をし、輸入・加工・販売まで
自身で行って来たのだそうだ。


現在は足を悪くされていて、歩くのも不自由
そうだが、それでも輸入してきたプルーンを
自分で洗ったり、煮て乾燥させて…という、
工程を一人で行って(かなりな重労働のため、
なかなか人手が集まらない事と、プルーンの事を
知らないアルバイトなどには任せることが出来ない
作業らしく)、袋詰め工場へと送っているらしい。


プルーンの事について、深く深く研究をして、
この「ミラクルフルーツ」と呼ばれる果実について
学者ですら舌を巻く程の知識を身に付けたそうだ。
その知識欲の旺盛さには、この僕ですら驚く。
「食」についてだけでなく、政治・経済・戦争・
寺院・草木・お茶・書などなど多岐に渡る内容で
夜中まで話は尽きない…


さて、話を戻そう。


おばあちゃんが住んでいるのは、南房総の漁港が
近い山の中腹にある屋敷だ。
内房沿いの海岸道路から少し山の方へ登って行き、
民家もまばらになって、ちょっと心細くなってきた
あたりで、更に山道へ車を入れる。
街灯も無く、真っ暗な上に車1台がやっと通れるような
道を抜けると、古めかしい門があり、その先に
意外なほど「今風」な平屋のお屋敷がある。


敷地は2万坪だそうだ。
その敷地の中に池を造り、多種多様な植物があちこち
に植えてある。
季節により、桜が咲き、水仙が咲き、竹林がそよぎ、
山菜が採れ、八朔が生り、鶯が鳴き、オニヤンマが
飛び交う自然の「里山」だ。
ここの池には、絶滅危惧種に指定されてしまっている
ニホンメダカが泳いでいる。
玄関から数歩離れて、誘蛾灯の明かりが目に入らない
場所で夜空を見上げると、15分ほどの間に3個も
流れ星を見つけた。
それだけ周囲に灯りが少ない証拠だ。


今年、おばあちゃんは滋賀県米原からゲンジボタル
の幼虫を2,000匹買って、池に放したんだそうだ。


「ホタルが飛ぶようになったら電話するからね。」


おばあちゃんは今年も、玄関の「お見送り窓」から
ニコニコといつまでも手を振っていた。


今年は天気にも恵まれ、思い出に残る夏休みとなった。
そして溜まっている「仕事」の事がふと頭を過ぎり、
僕はまた始まる日常に、少しだけうんざりした。


参考:
http://www.nwco.com/com/hiprune/indexj.html
http://www.prune.jp/about/about.html
http://www.jr3.net/gourmet/prune/