【書評】疾走(上・下)/重松清


この本には救いが無い。


そう思った。


主人公のシュウジはどこにでもいる
普通の中学生だった。


寡黙な父と、ひたすら家族のために尽くす母、
勉強ができる自慢の兄、幸せを絵に描いた
ような家庭だったはずだ。
それがほんの些細なことから、ボタンの
掛け違いは始まる。


いじめ、孤独、暴力、放火、自殺未遂、ヤクザ、
SEX、殺人。
様々な負のスパイラルに落ちていくシュウジを、
まるで守護霊のような目線で淡々と描いていく。
そこに居るはずのない、見えない「誰か」の
目線で。
またシュウジ自身も、その境遇を淡々と
受け入れる。


救いが無い。


話が展開していくに連れ、さらにその感覚は
深くなる。
ゆっくりと、じわじわ水を含んでいく真綿の
ように、ずっしりと重くなる。
上巻を読み終えて、思わず溜め息が出る。


まだ、半分だ。
ここから、どう展開するつもりなんだろう。
上下巻まとめて買っておいてよかった。
息を吸い込んで、下巻を開く。


どうしてこの人はこんな小説が書けるのだろう。
とても重く、そして静かだ。
舞台となる場所は広範囲に及び、人間関係も
複雑で、背景となる一人一人の職業や行動まで
細かく書き込まれている。


たくさんの登場人物が現れては、消えていく。
そして、その誰もが幸せにはなれない。
エンディングではシュウジ自身にも悲劇の
最後が待っているのだが、それでも不思議と
悲壮感は無い。


「ハッピーエンドだ…」


読み終えて、なぜだかそう感じた。