サニーサイド


高校生の頃、入り浸っていた店があった。
「サニーサイド」という名前のライブハウスだ。


学校が嫌いだった僕は、授業が終わると一目散に
この店に向かうことが多かった。
学校にも友人は居たが、どちらかというと
他校の友人の方が比率は高かったのだ。
当然学校が違うと、会うのは授業が終わってから
ということになり、必然的にこの店が僕らの
溜まり場と化していた。


店のオーナーは、僕らよりちょっと年上の、でも
世間のことなど全然気にしてなんかいないような
ロン毛のアニキだった。
僕らはいつも数百円でコーラか何かを飲み、
夜中までそこに居座った。
友人たちとくだらない話を延々と繰り返した。
たまにはオーナーも会話に加わった。
突然セッションが始まったりもした。


そこでは様々な友情が生まれ、恋も生まれた。
夢を語り、社会を論じ、意見を言い合った。
何かを語ればそれが実現すると信じていた。
そして時に笑い、時に泣いた。
初めてドライ・ジンを飲んだ。
加減が判らず、吐くまで飲んだ。
朝まで居座って、翌日学校をサボった。
みんなに倣って髪を伸ばし、金色に染めた。
そこに来る大人の女性に憧れた。
初めてアダルトビデオを見た。
パンク系の彼女ができた。


夢も希望も挫折も、すべてがそこにあった。
青春とは呼べないかも知れない、どす黒いものが
渦巻いていた。
勝ち組を目指して、さっさと大学進学を視野に
入れていたヤツらから見ると、どうしようもない
クズの集まりだと鼻で笑われた。


10代の若造は予想以上に成長が早い。
それは取りも直さず、環境の変化への順応性が
高いということだ。
僕らはそれぞれの道を探し、それぞれの方向へ
散っていった。
サニーサイドはその後数年で店を畳んだ。


まるで夏の盛り、一斉に太陽に向かって大輪の
花を咲かせ、秋の声を聞くと共に萎れていく
向日葵のようだった。
僕らはほんのひと夏の間だけ、青春という名の
花を咲かせ、そして次の世界へと散っていった。


そこに集まっていた仲間の大半は、今はもう
名前すら思い出せない、今なにをしているのか
など、知り得る方法も無い。


サニーサイド。
それは夏の間だけ、パッと咲いた大輪の花。