ハーレー・ダビッドソン


渋谷にハーレーショップがある。


ちょうど東急ハンズの入り口の対面のゴミだらけの坂を登ったところに
あの、オレンジ色のロゴの看板がやたらと目に付く。
渋谷の雑踏に似つかわしくない佇まいだ。


お昼の12時少し前、60代くらいの夫婦が店から出てきた。
旦那の方は禿げ上がった白髪だが、襟足を長めに伸ばし、これまた
白髪のヒゲを伸ばしていた。
さらに「ハーレー」のロゴと鷲の翼の刺繍が背中に入ったGジャンと
履き込んだ風合いのブルージーンズを履いていた。
奥さんの方は普通の黒のワンピースだ。


「ハーレー」というバイクも特殊な商品だと思う。


ハーレーに惚れ込んだ人はバイクを買うだけでは収まらない。
ハーレーに合わせてGジャンを着、髪を伸ばし、ヒゲを蓄える。
そして思い余って「刺青」を彫る。


そうなってしまうと、もう普通のサラリーマンなどできやしないので
転職をし、平日昼間から、あの独特の2気筒エンジンの排気音を
響かせながら渋谷に愛車で乗り付けるようになってしまう。


嗚呼、ハーレー・ダビッドソンというバイクは、人のライフスタイル
まで変えてしまう力を持った企業なのだ。
この世の中のどこに「企業名」を自分の体に刺青として彫り込んで
もらえる会社があるというのだろう!


世界の「ソニー」でも「マイクロソフト」でも、あの「ディズニー」
でさえ、ロゴマークを肩に彫って誇らしげに闊歩しているオヤジに
お目に掛かったことは無い。
(まあ、世の中には物好きもいるから分からないけどネ)


なんてカルトなんだ!
ハーレー・ダビッドソン!


ショップから出てきた老夫婦は、仲良くパルコの方へ歩いて、
およそ似つかわしくないブリティッシュ・パブに入って行った。