電車移動


かれこれ6年くらい、営業で動く際は車での移動であった。
そしてずっと、車移動は「楽」だと信じていた。
しかし、ここ2ヶ月くらい車を置いて電車と徒歩で営業に動いて
いるのだが、これがかなり合理的である事に改めて気が付いた。


まず、都内で動くにあたっては、車よりも電車の方が格段楽だ。
当然運転手なぞ付いている身分では無いので、自分で運転して
目的地へ向かうのであるが、運転をするという作業もそうそう
楽なものではない。
加えて、渋滞に嵌る。
駐車場も探さなければならない。
昨今の法律改正により、運転中は携帯での電話もできない。


それに引き換え、電車であれば座っていれば目的地へ着く。
本も読める。
こうやってブログの下書きもできる。
眠くなったら少し居眠りをしたりもする。
もっとも、乗り越したりすると大変であるが。


日々電車で移動なさっている諸兄には、何を今更というお話で
あろうが、何分我社は昔から伝統的に車移動なので仕方が無い。
特に意味も無く、能力の高い者は車を使って移動する「権利」を
取得できる、といった認識が暗黙の内に跋扈している会社だ。
日中の半分方を車内で過ごしているといっても過言でないくらい
車に頼った行動をしているものと思ってお聞き頂きたい。


車で移動していると、窓を閉め切ってエアコンを入れてしまうので
外気のことが分からなくなってしまう。
少し前なら梅雨時期の濡れた青葉の匂い、ちょうど昨日あたりなら
太陽に焼けたアスファルトの匂いや、地面から立ち上る大量に湿気を
含んだ輻射熱などを感じることなく日々を過ごしてしまう。


朝は大手町に人が多いが、夕方には渋谷駅前のスクランブル交差点が
その3倍くらいの人で混雑することなどはその場を歩いていなければ
実感は薄い。
ひどい夕立が来ると石神井の並木道の歩道がすぐ冠水してしまう
ことなど、車であれば気が付く事すら無い。


電車移動だからこそ、JR山の手線の恵比寿駅の発車ベル(メロディー)が、
エビスビールのCMで使われている「第三の男のテーマ」であることを
発見し、ちょっと嬉しくなる。
電車の吊り広告を見て興味を引かれて買った、乙一氏の「失はれる物語」も
もしも車で移動していたら、今頃僕の手元には無かったはずだ。


四季の移り変わりを肌で感じずに生活をしていて、日本人を
名乗るのはおこがましい限りである。
やはり一日中車に乗っているのは、健康にも環境にも人間性にも良くない。
目・鼻・耳・皮膚・舌…あらゆる器官を総動員してこそ
生きている実感が得られるというものであろう。


あまり生活が便利になりすぎると、人間の本質的な何かが
失われてしまうのかも知れない。


まあ、電車移動で困る事と言えば、持ち歩く資料とパソコンで
鞄がやたらと重くなってしまう事と、雨の日にズボンの折り目が
消えて無くなってしまう事くらいか。