会話


表参道のウェンディーズで、いつものように両耳にイヤホンを
突っ込んで妹尾河童の「少年H」を読んでいた。


ここのウェンディーズはいつ来ても席が空いているので、
神宮前のお客を訪問するときにはよく利用するのだが、
なぜか、レジで待たされてイライラすることが多い。


飲みかけのコーラの紙コップが汗をかいて、テーブルの上に
ドーナツ状の水の輪を作っている。
BGMは、昭和12年の神戸が舞台の小説に到底似合うとは思えない、
B'zの「MONSTER」だ。


隣の席には高校生か大学生か、Gパンとタンクトップの
女の子2人が座った。
カウンターから持ってきたトレイを窮屈そうにテーブルに置き、
ハンバーガーを頬張りながら身振り手振りでおしゃべりに
熱中している。


一人はルーシー・リューに似た東洋系の顔を持つ背の高い娘。
もう一人は南米と日本人のハーフのような、少しエキゾチックな
目鼻立ちの黒髪の娘だ。


ちょっと驚いたのだが、音楽が途切れたとき聞こえてきた
彼女たちの会話は、聞き取るのが困難なほど早口の流暢な
英語だったのだ。


僕はてっきり日本人だと思い込んでいた。
そのせいで、ふと聞こえてきた英語での会話がとても以外で
思わずイヤホンを耳から外した。


その話しっぷりから、どう見てもネイチャーだ。
話してる内容なんか、さっぱり分からないくらい早口である。
だが、会話の中に時々日本語が混じる。
それも「単語」ではなく、「文節」を使う。
英語での会話の中に「HARAJYUKU NI IKU?」とか
「KEITAI DE DENWA WO SHITARA」というフレーズを織り交ぜて
彼女たちは会話をしているのだ。


僕はしばらく彼女たちの会話に聞き惚れた。