アナログ


あれは先月、1月21日の日曜日のことだ。
中野のリサイクルショップでレコードプレーヤーを
買った話は以前の日記の中でも書いた。
あれから何かと忙しかったので、すっかり忘れていたのだが、
今日プレーヤーをアンプに繋いでみた。
ちなみに購入したプレーヤーはDENON製のDP-29Fという
2002年発売の製品だ。



20代の頃、バンドでライブをやるたびに数台の
シンセサイザーシーケンサー(シンセを自動演奏
させるための専用のPCのようなものだと想像されたし)
を持ち歩き、演奏前にステージ上で結線していた経験も
あり、AV機器の結線は得意なはずだった。
しかし久しぶりのアナログレコードプレーヤーに
若干てこずった。


ウチにあるアンプはSANSUIのAU-D607Fという機種だ。
(1980年発売のコレ自体がすでに年代ものである)
裏側にひっくり返し、「PHONO-1」に購入したプレーヤーの
OUTPUT端子を差し込み、手近にあった「佐野元春」の
「NO DAMAGE」をターンテーブルに置いてみた。


すると、どういう訳かかなりのオーバーロード
僅かにゲインを上げただけで相当大きな音が出る。
そして当然ひどく音が割れている。
DENONのHPからこの機種の取説をダウンロードして
やっと分かった。
このプレーヤーは2002年製で比較的新しいものだ。
プレーヤー自体にイコライザーが内蔵してあって
アンプのインピーダンスに自動的に合わせる仕組みに
なっていて、その切り替えスイッチがターンテーブル
内側に隠してあったのだ。
先述の通り、SANSUIのアンプは1980年製のもので、
20年後にそんな機能を持ったプレーヤーが出現して来る
事など全く想定していなっかったのであろう、普通に
「PHONE」端子と「AUX」端子を備えており、それぞれの
インピーダンスに合った入力ができるようになって
いたのだった。


さて、これで完璧だ。


プレーヤーの「START」のスイッチを押すと、アームが
自動的に動き出し、黒いレコード盤の上に針を落とす。


「ボツッ」という音の後、僅かなヒスノイズと共に
「プツッ、プツッ」と規則的なノイズが入る。
1曲目の「スターダスト・キッズ」のSAXのイントロが
始まるまで予想以上の「間」がある。


そうか、昔はそうだった。
CDのようにスイッチを押せばすぐ曲がスタートし、
気に入らなければ次の曲へスキップすることなど
出来はしなかったのだ。
針を落としてから曲が始まるまで、ドキドキしながら
待ったもんだ。
アルバムの中での曲の順番は決まっていて、今のように
「ランダム再生」など無く、アーティストの決めた
順番に従って聴くしかなかったんだ。


当時「手軽に音楽」なんて仕組みは無かった。
音楽を聴くことは一種の「儀式」のようだった。
だから僕たちはアーティストの歌い方の1番と2番との
違いやギターのミスタッチのノイズや次の曲へ入る
までのタイミングまでこと細かく聴き取った。


音楽はいつも僕たちの一歩前にいた。
あの頃、音楽は生活の一部ではなかった。
音楽を聴くという行為は、特別な時間だったのだ。
慎重な手つきでレコードを紙ジャケットから取り出し、
ターンテーブルに乗せ、そして祈るように真剣に聴いた。
それがアナログレコードの良さだったのかも知れない。


そんなことを考えているうちに曲は進み、
部屋のスピーカーからは「SOMEDAY」が流れていた。


「Happiness & Rest
約束してくれた君
だからもう一度あきらめないで
まごころがつかめるその時まで
SOMEDAY
この胸に SOMEDAY
誓うよ SOMEDAY
信じる心 いつまでも
SOMEDAY…」